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事例紹介

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更新拒絶の正当事由と立退料の税務上の取り扱い

建物を事務所兼倉庫として、会社に賃貸していたオーナー(個人)から相談を受けました。
内容は、
・現在の建物は平屋であり、建蔽率や容積率を勘案した場合には、利回りがすこぶる悪い
・今の建物を建て替えて、利回りを良くしたい
・ついては、今の賃借人に退去をしてもらわないといけないが、8か月後には契約の満了時期なので、更新せずに退去をしてもらいたい
との内容でした。
実際は、オーナーと懇意にしている不動産業者の営業マンを通しての質問であり、賃貸人からの更新拒絶には、正当事由が必要なのですが、不動産関連の方でも誤解している方がいます。
確かに賃貸借契約には、条項として「賃貸人又は賃借人が、前条の賃貸借期間満了の6か月前までに、相手方に対し更新しない旨の通知をしないときは、同一条件で更新されるものとし、」などの記載があるものをよく見ます。
契約書を見る限り、賃貸人が「更新しない旨の通知」をした場合には、当然に、契約の更新拒絶ができると読めます。契約書に記載があるのであるから、一般人の常識としては、賃貸人・賃借人のどちらからでも、約定どおり契約の更新拒絶ができると考えるのは無理のないところでもあります。

しかし、借地借家法26条において、建物賃貸借契約の更新等の規定があり、同法28条では、賃貸人の更新拒絶の要件として「正当事由」がある場合でなければ、することができない、と規定しています。
ただ、借地借家法に規定があっても、契約でお互い合意したのであれば、正当事由を要しないのではないかとの疑問が出てくるところでもあります。
これについても、借地借家法に規定があります。同法30条で、建物の賃借人に不利な特約は、無効とする、規定しています。つまり、賃貸人からの更新拒絶で正当事由を要しない旨お互い合意しても、賃借人に不利な特約であることから、同法30条により、効力がないのです(このような規定を強行規定という)。

それでは、どのような事由があれば正当事由とされるのでしょうか。
借地借家法28条では、当事者双方の使用の必要性を主たる判断基準とし、その他に「建物の賃貸借に関する従前の経過」「建物の利用状況」「建物の現況」「立退料の提供等」が総合的に勘案されます。
立退料の内容としては、移転経費(引越しに要する費用)、借家権の価格、営業補償などが考えられます。
立退料の額については、一概には算定できず、正当事由を補完するものですから、他の事由の強弱が、立退料の額に影響します。
本件では、家屋を建て替えて、有効利用したいとの事情でしたから、賃貸人の営業の必要性ということができます。ただし、営業の必要性は、居住の必要性よりも判断要素としては、弱く斟酌されるうえ、自ら商売で建物を使用するわけではありませんから、やはり、事由としては弱くなります。
この場合には、ある程度高額な立退料が必要になってきます。

そこで、どの程度の立退料が必要となるかとともに、どの程度の立退料の負担ができるか、が問題となります。
この判断要素の一つとして、考えるべきものに税効果があります。立退料の負担により、納税額が減少するのであれば、実際の負担額も減少するからです。
税務上の立退料の取り扱いは、個人の場合、所得税基本通達37-23で「不動産所得の基因となっていた建物の賃借人を立ち退かすために支払う立退料は、(中略)不動産所得の計算上必要経費に算入する」と規定しています。つまり、立退料を支払った年の経費となるのです。
そして、所得税の最高税率は、平成27年以降で45%、住民税が10%であり、また、不動産の貸付が一定規模以上であれば、さらに事業税が5%発生します。所得の高い方の場合、税率の合算は60%にもなります。
つまり1,000万円の立退料の支払いをしても、所得税最高税率の方であれば、600万円の税金の減少が見込まれ、実質負担は400万円といえます。
ちなみに、立退料が不動産所得の経費となるのは、借家の立退料についてです。借地の立退料の場合は、通常、借地権の買戻しの対価となるので、土地の取得費になり(所得税基本通達37-11)、不動産所得の経費とはならないので注意が必要です。
また、不動産を譲渡する目的で借家人に立退料を支払った場合には、その支払った立退料は、不動産所得ではなく、譲渡に要した費用として、譲渡所得から差し引かれます(同33-7)。
本件では、いわゆる大地主の方で、不動産所得も相当程度あったことから、立退料の税効果も高くなりました。実際には、交渉の末、一定程度の立退料を負担して退去してもらうことができました。
税効果やその後の有効活用による利益をも考慮すると、ある程度高額になっても、早期に解決できることが、結果として有利になることは十分あります。