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事例紹介

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遺言書と遺産分割協議

昨今、遺言書の作成が増加しているようです。私が経験したいくつかのケースで、遺言書が作成されていたものの遺言書どおりに遺産を分割した場合には、税務上不利になるケースがありました。
相続税の計算には、いくつか特例制度が設けられており、その中で財産の取得者の個性によって、受けられる特例制度があります。
代表的なものとしては、「小規模宅地等の特例制度」が挙げられます。被相続人と同居していた親族や自身ないし配偶者の持ち家に住んだことがないなどの要件を満たした親族が、被相続人の居宅を取得した場合、土地の評価額が最大で8割減額されます。減額幅が大きいため、相続税額への影響も大きく、無視できない金額になることはよくあります。
また、配偶者が取得した財産については、配偶者の法定相続分と1億6千万円のどちらか多い額まで相続税は課税されません(配偶者の相続税額の軽減制度)。

それでは、遺言書はあるものの、遺言書どおりに分割した場合には、前述の特例が受けられずに、相続税額が多く発生してしまう場合、どのような対応があるでしょうか。
まず、法定相続人等利害関係人全員の同意が得られる場合には、簡単です。
遺言書があるからといって、必ず従わなければならないものではありません。遺言書によらずに相続人全員の同意に基づく遺産分割協議を行うことができ、その協議において、税務上有利な分割を行えば良いのです。
ただし、特定の相続人に有利な内容の遺言書も多いことから、遺言書によらずに分割協議を行う場合には、遺言書において不利な相続人は、遺言書よりも多くの財産の取得を主張してくるでしょう。
このような場合には、簡単に遺言書から、協議分割に切り替えるわけにもいきません。

以前、このようなケースにおいて、遺留分の減殺請求を利用した節税を行ったことがあります。
相続人は、後妻Aとその子B及び前妻の子C(後妻と養子縁組無)の3人でした。遺言書の内容は、事業を引き継ぐBに対し、全財産の9割程度を相続させ、残りをCに相続させる内容でした。Aは、遺言書に賛同していましたが、配偶者の相続税額の軽減制度により、Aが遺産を相続すれば、相当程度の相続税の減額をすることができました。
他方、Cは、Aの会社とは無関係で、遺言書に不満を持っていました。したがって、相続税が有利になるからといって、分割協議に切り替えるとCは法定相続分を主張してくる可能性が高いためできませんでした。
そこで、Aは遺言書の内容に不満はないものの、あえてBに対し遺留分の減殺請求をし、その協議の中で一部遺産をAに相続させることにしました。
この方法により、遺言書を生かしたまま、財産を分割することができ、結果として相続税の減少が図れました。
全てのケースでうまくいくとも限りませんので、やはり遺言書の作成にあたっては、税金に配慮することが肝要です。
さらに作成後にも税制改正や相続人の個性の変化により、税金の計算も変わることがあるので、定期的に見直すことも必要と考えます。