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事例紹介

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財産分与と譲渡所得税

離婚事件を扱った時の話です。
夫が所有し、元々妻と同居していた不動産を、夫が妻に財産分与することがありました。
離婚事件においては、居住用不動産を他方配偶者に財産分与することはよくあります。

では、財産分与とは何でしょうか。
民法では、協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対し財産の分与を請求することができる(民法768条1項)と定めています。
また、協議が調わない場合には、裁判所に対し、分与請求をすることができます(同条2項)。
この財産分与請求権の性質は、
① 婚姻中に夫婦が協力して蓄積した財産の清算(清算的要素)
② 離婚後において生活に困窮する配偶者に対する扶養(扶養的要素)
③ 離婚の原因について責任のある配偶者から離婚により精神的苦痛を被った相手方配偶者への賠償(慰謝料的要素)
の三つの要素を併せ持つものといわれています。

それでは、財産分与を行った場合の課税関係はどうなるのでしょうか。
まず、分与が金銭で行われた場合には、課税関係は生じません。一方、不動産など資産の移転があった場合には、その分与をした者は、その分与をしたときにおいて、その時の価額によりその資産を譲渡したことになります(所得税基本通達33-1の4)。
無償で譲っているのになぜ譲渡になるのか疑問もあるところですが、財産分与として資産を給付した場合には、その財産の移転については、その給付が財産分与の義務を消滅させるものであり、それ自体一つの経済的利益の享受であることから、その分与義務の消滅という経済的利益を対価とする資産の譲渡があったものとして譲渡所得の課税が行われるのです(最判昭50.5.27判時780・37)。

したがって、財産分与として資産の譲渡があった場合は、分与財産が分与時の時価で譲渡されたものとして、譲渡所得金額の計算が行われます。ここでいう時価は、相続税評価額ではなく、客観的交換価値(実勢価額)です。
しかし、理屈では譲渡所得が発生すると分かっても、現実問題として、売買代金が入ってくるわけではないので、納税資金の確保が問題となります。

そこで、キャピタルゲインが発生している場合には、譲渡の税金をできる限り抑えるために、税務上の特例を検討する必要があります。
居住用不動産の財産分与については、税務上次に掲げる特例が考えられます。

① 贈与税の配偶者控除(離婚届前に財産分与をする場合)
婚姻期間が20年以上の夫婦において、居住用財産の贈与があった場合には、課税価額から2,000万円が控除されます(相続税法21条の6)。
基礎控除110万円をあわせると2,110万円まで無税で居住用財産の移転ができます。2,110万円では控除額が少ないと感じる方もいると思いますが、不動産の評価額は相続税評価ですので、時価より相当程度低いです。
マンションの場合、5,000万円程度で 購入した物件でも、相続税評価にすると2,000万円そこそこといったケースは、間々あります。夫婦間の特例であるため、離婚届前に受ける必要があります。

② 居住用不動産の3,000万円控除(離婚届出後に財産分与をする場合)
個人が居住用の不動産を譲渡した場合には、譲渡所得金額から3,000万円が控除される制度です(措法35条)。配偶者への譲渡など、特別の関係にある者への譲渡の場合には、適用がないので、離婚後に財産分与をする必要があります(ただし一定の場合には、除籍手続き前であっても適用が受けられます)。
キャピタルゲインが3,000万円以下の場合には、譲渡所得税は生じません。さらに、所有期間が10年を超える場合には、キャピタルゲインが3,000万円を超えた場合でも、その超えた部分については6,000万円まで軽減税率(通常の長期譲渡所得の税率が所得税・住民税合算で20.315%であるのに対し、軽減税率は14.21%)の適用が受けられます。

他方、財産分与により、資産の給付を受けた側の課税はどうなるのでしょうか。
これについては、離婚により相手方から財産をもらった場合、通常、贈与税がかかることはありません。これは、相手方から贈与を受けたものではなく、夫婦の財産関係の清算や離婚後の生活保障のための財産分与請求権に基づき給付を受けたものと考えられるからです。

ただし、次のいずれかに当てはまる場合には贈与税がかかります。
① 分与された財産の額が婚姻中の夫婦の協力によって得た財産の額やその他すべての事情を考慮してもなお多過ぎる場合
→ この場合は、その多過ぎる部分に贈与税がかかることになります。

② 離婚が贈与税や相続税を免れるために行われたと認められる場合
→ この場合は、離婚によってもらった財産すべてに贈与税がかかります。

離婚に伴う財産分与を行う場合には、税金への配慮を忘れずにしなければなりません。
本件では、3,000万円控除の特例を受けることで、譲渡所得をゼロにすることができ、財産分与も無事解決できました。