債権回収Q&A

債権回収とは・債権回収のメリット

そもそも債権回収とはなんですか?

相手から金銭を回収することです。
債権回収とは、本来あなたの手元にあるべきなのに、他人が持っている財産を、きちんとあなたの手元に回収することをいいます。
いくらお金を支払ってもらえる権利を持っていても、現実に回収しなければ絵に描いた餅でしかありません。生活の安定、経営の改善という観点から、債権回収は非常に重要なものといえます。

債権回収が問題になるのは、どのような場合ですか?

金銭を請求したいと考える場合で、例えば次のようなケースです。

  • 商品やサービスを取引先に提供したのに、代金を支払ってくれていない
  • 相手にお金を貸したのに、返してくれない
  • 取引先が契約に違反したのに、その損害を賠償してくれない
  • 給料や、残業代を支払ってくれない。

債権回収にはどんなメリットがありますか?

個人様なら生活が安定し、企業様なら経営が改善します。
債権回収のメリットは単純明快で、「金銭が手に入る」ということです。

(1)個人様のメリット
個人様の場合、生活には金銭が不可欠なので、債権回収により生活は安定します。また、知り合いや身内が相手方の場合、金銭のやり取りを清算することによって、人間関係がすっきりするというメリットもあります。

(2)企業様のメリット
キャッシュは、企業活動において血液ともいわれます。どんなに売上があっても、回収額が少なければ、今後の経営に支障が生じます。金融機関からは回収率が低いと融資を断られ、最悪の場合倒産に至ります(いわゆる黒字倒産)。
また、法人税や所得税は、売上時・商品引渡時など、金銭を現実に回収するよりも前に課税されることが基本です。そのため、金銭を回収していないのに、法人税は納めなければならないという二重苦が生じることもあります。
債権回収を確実にするということは、こうした問題を解決し、経営状況を改善するというメリットがあります。

債権回収の方法 債権回収に重要な証拠(契約書等)

債権回収には、どのような方法がありますか

大きく分けて、①交渉による方法と、②強制的な方法がございます。

(1)交渉による方法
相手方と交渉をし、和解をすることによって、任意の支払いを受けて債権を回収する方法です。民事調停など、裁判手続の中で交渉するという方法もあります。

(2)強制的な方法
訴訟を提起したり、担保権を行使したりするなどして、強制的に債権を回収する方法です。

交渉による債権回収のデメリットは何ですか?

強制力がないという点がデメリットです。
あくまで話し合いで強制力がありませんから、相手方が交渉のテーブルに着かなければ、事態が進展しません。長期間交渉したけれども、結局合意に至らず訴訟を提起せざるを得なかったケースなどは、最初から訴訟をするよりも逆に費用と時間がかかることもあります。
ある程度交渉の期間を決め、それまでに解決にならなかったら訴訟を提起するなど、メリハリのある方針を定めておいた方がよいでしょう。

交渉の内容に強制力を持たせることはできないのですか?

裁判上の和解、公正証書といった方法があります。
裁判手続の中でする和解は、確定勝訴判決と同様の効果があるので(民事訴訟法民事訴訟法267条)、強制力を持たせることができます。このように、裁判にしつつ交渉を進め、強制力をもった和解調書を作成するという方法があります。こうした和解調書だけを作成するために訴訟を提起し、即座に和解調書を作成して訴訟を終了させるという方法もあります(即決和解)。
次に、「公正証書」を作成するという方法もあります。和解した内容を書面にすることはもちろんですが、単なる書面ではなく、公証人という公的機関が関与した公正証書という形の書面にすれば、強制力をもたせることができます(民事執行法22条5号).

強制的な方法による債権回収のメリットは何ですか?

相手の意思を問わずに回収できることです。
訴訟などの強制的な方法は、相手方が交渉に応じないときに効果を発揮します。訴訟を提起された相手が観念して、交渉のテーブルに着くというケースもございます。このように、膠着した状況を解決するのに非常に有効な手段といえます。

強制的な方法によるデメリットは何ですか?

一定の時間とコストに加え、専門的な知識・ノウハウが必要となります。
裁判手続を利用するため、一定の時間とコストが必要になります。ただ、相手方の反応が鈍いときなどは、交渉による場合も結局は早く、安価になることもあります。ケースバイケースといえるでしょう。
また、強制的な方法により債権を回収するためには、契約法といった実体法に加えて、民事訴訟法、民事執行法などの裁判手続法に精通する必要があります。どのような主張と証拠を提出すれば裁判官を説得することができるのかという訴訟技術的な視点も重要となってきます。こうした問題点を解決するために、当事務所のような専門家が存在しています。

強制的な債権回収方法には、どのような種類があるのですか?

次のように、法は複数のメニューを用意しています。それぞれメリット・デメリットがあるので、適切な手段を選択することがポイントです。

  • 通常の民事訴訟
  • 少額訴訟
  • 督促手続
  • 民事調停
  • 公正証書(執行証書)
  • 担保権の行使 など

訴訟に勝てば、金銭は支払われるのですか?

基本的に支払われますが、強制執行が必要になるときもあります。
こちらが勝訴し、相手方が敗訴すれば、通常相手方は金銭を任意に支払います。しかし、任意の支払いがなければ、勝訴判決に基づいて相手方の財産を差し押さえて、強制的に金銭を回収する必要があります。これが強制執行手続です。
強制執行は、相手方が任意に支払わないときに、相手方の財産から強制的に金銭の回収を図る手続です。

債権回収の専門家

債権の回収にはどのような専門家がいますか?
弁護士、税理士、司法書士、信用調査会社などがいますが、それぞれ役割が異なります。

1 弁護士
与信管理・証拠収集・交渉・裁判といったすべての段階で依頼者様をサポートすることができる専門家です。原則として、弁護士以外の者は債権回収という法律業務を行うことはできません(弁護士法72条)。
2 税理士
直接債権回収を行うわけではありませんが、御社や相手方の財務分析や貸倒処理など、会計・税務の観点から債権回収のサポートをすることができる専門家です。
3 司法書士
請求する債権の金額が140万円以下なら、弁護士と同様に交渉や裁判をすることができます。
4 信用調査会社
新しく取引をする相手や、債権を回収したい相手方の財産状況を知りたい場合に、貴重な情報を提供してくれます。
信用調査会社を上手く活用することによって、債権回収の成功率が高まります。

債権回収を弁護士に頼むメリットは何ですか。

回収可能性が高まります。また、債権回収に伴う負担が軽減されます。
弁護士は、依頼者様を有利に導く法解釈や、交渉や裁判を有利に導くための証拠・事実主張を駆使することができます。また、弁護士照会など弁護士だからこそ収取できる情報・証拠があります。これらにより、債権回収の可能性が高まります。
また、債権回収には相手方との粘り強い交渉や、平日に行われる裁判に出頭する必要がございますが、弁護士に依頼すれば、このような負担は軽減され、本来の業務や生活に専念することができます。

強制執行による債権回収

強制執行とは何ですか?

相手方の財産を差し押さえることによって、強制的に債権を回収することです
勝訴判決や担保権を有していても、相手方が任意に支払わない場合があります。このときに、相手方の財産を差し押さえ、売却することによって、強制的に債権を回収するという手段のことを強制執行といいます。

強制執行をするには何が必要ですか?

原則として債務名義という文書が必要となります。
債務名義とは、権利の存在を公に証明した文書です。相手の財産に対して強制執行をするときに必要となります。債務名義になるものは法律で定められており(民事執行法22条)、確定勝訴判決、和解調書など、公的な機関が関与した文書になります。
他にも執行文や送達証明書、資格証明書など細かい書類が必要になりますが、最も重要な書類は、債務名義という文書です。
ただ、担保権を有している場合は、その存在を証明する文書などが債務名義の代わりになります(民事執行法181条1項)。

訴訟をしてからでないと、強制執行はできないのですか?

公正証書や担保に基づいて強制執行をすることが考えられます。
強制執行をするためには原則として債務名義という文書が必要で、その代表的なものが確定勝訴判決です(民事執行法22条1号)。
ただ、公証人が関与する公正証書という形で契約書を作成した場合、一定の要件を満たせば確定勝訴判決に代わる債務名義になります(同法22条5号)。
また、担保権を行使する場合には、債務名義は不要となります(同法181条1項)。
こうした手段を利用すれば、一定の時間とコストがかかる民事訴訟を回避して、迅速な債権回収が期待できます。

担保による債権回収

担保とは何ですか?

債権の回収を確実にするための手段です。
債権を持っていても、相手方に現金が全くなければ、回収は非常に困難になります。しかし、例えば支払えなかったら相手方の持つ土地を競売し、その代金から回収するなどの合意をするとします。そうすると、土地の価値だけ回収の見込みが飛躍的に高まります。これが担保で、債権の回収を確実にするための一種の保険・保証といえます。

担保のメリットは何ですか?

債権回収の確率を高めると同時に、回収のスピードが上がります。
保証人など人的な担保を設定すれば、支払う相手が増えるのですから、債権回収の確率が高まります。
また、物的な担保を有している人は、その担保から優先的に金銭を回収することができるので、やはり債権の回収の確率を高めることができます。
また、抵当権など一定の担保権を行使する場合は、勝訴判決を得る必要がなく迅速に回収できるというのも大きなメリットです。

担保のデメリットは何ですか?

担保の価値が下がるリスクと、管理にコストがかかるといった点です。
例えば、保証人や土地の抵当権といった担保を付けたとしても、保証人に財産がなくなれば価値はありません。土地に担保を設定したとしても、不景気などで価値が下がれば、回収できる金額も下がります。
そして、こうした事態を防ぐために、管理をするというコストもかかります。
金額が比較的少額であったり、相手方が大手であり支払能力が十分といった場合には、あえて担保を設定しないという選択肢も合理的です。
なお、担保を設定するためには、相手方と同等以上の交渉力が必要になってくるケースが多いです。この点もデメリットといえるかもしれません。

担保にはどのような種類があるのですか?

多種多様のものがあり、それぞれの特徴を理解する必要があります。
担保としては、次のようなものがあります。それぞれの意味は、用語集のページを参照してください。それぞれ一長一短がありますので、その特徴に応じて使い分ける必要があります。
(1)人的担保

  • 保証
  • 連帯保証
  • 根保証

(2)物的担保

  • 留置権
  • 先取特権
  • 質権
  • 抵当権
  • 根抵当権
  • 譲渡担保権
  • 所有権留保

(3)担保類似の制度

  • 相殺

財産の隠匿・処分を防ぐ方法(民事保全)

相手方が、財産を隠す危険があるのですがどうすればよいですか?

財産を仮に差し押さえるという民事保全手段があります。
訴訟を提起している間に、相手方が価値のある財産を隠匿、処分するリスクがあります。このリスクを回避するために、相手の財産を仮に差し押さえておくという民事保全手続があります。

民事保全のメリットは何ですか?

勝訴判決の実行性が高まる点です。
勝訴判決をしても、強制執行時に相手方の財産がなければ、強制執行は空振りに終わってしまいます。民事保全手続を利用して相手方の財産を仮に差し押さえておくと、こうした事態を防ぐことができます。

民事保全のデメリットは何ですか?

担保金(保証金)が必要になる点です。
民事保全手続は、まだ勝訴していないのに、相手の財産を仮に差し押さえるのですから、濫用の恐れがあります。そこで、仮に差し押さえようとする財産の、一定割合の金額(これを担保金、あるいは保証金と呼びます)を裁判所に収める必要があります。
この担保金は、勝訴した場合はもちろん、多くの場合返還されます。それでも一度に多額の現金を用意しなければならないことがあり、この点で負担となってしまいます。

民事保全をするためには、何が必要ですか?

申立書や疎明資料となる証拠、担保金(保証金)が必要です。
民事保全手続によって財産を仮差押えする場合、まずその旨の申立書が必要となります。また、裁判官に、自己に権利があり、差し押さえる必要があることを説得する必要がありますので、そのための資料(疎明資料)が必要となります。
さらに、仮差押えの対象となる財産の何割かに相当する担保金(保証金)を裁判所に収める必要があります。

債権回収に必要な時間

債権回収にかかる時間はどの程度ですか?

相手の対応と事案の複雑さに左右されます。
ただ相手方が支払うのを忘れていたというような場合では、電話一本で終了するケースもございます。他方で、契約の存在や内容を争っている場合や、事案が複雑な場合には、交渉・裁判ともに長期間必要になるケースもございます。
このように、債権回収に必要な期間は、相手の対応と事案の複雑さ次第という側面がございます。同じように、債権回収のコストも、相手の対応と事案によって変動する面があります。

債権回収に時間をかけるよりは、早く諦めて仕事や本業に専念したほうがよいと思うのですが?

弁護士に任せて、ご自分は仕事や本業に戻るという選択肢もございます。
債権回収には一定の時間がかかりますので、回収できなかった部分はいわば「授業料」として諦め、潔く仕事や本業に専念するというのも合理的な選択と考えられます。
ただ、債権回収を弁護士に依頼することにより、仕事や本業に戻りつつ、並行して債権回収を目指すという選択肢もございます。

裁判になったら、地裁・高裁・最高裁と三回裁判が終わるまで、現金は回収できないということですか。

地裁勝訴時点で仮執行をすることができます。
第一審に勝訴し、相手方が上訴しなかったら、判決は確定して、強制執行をすることができます。
第一審の地方裁判所で勝訴したが相手が上訴した場合でも、通常は仮執行宣言(民事訴訟法259条)が付されますので、相手方の財産に対して強制執行をすることができます。これにより、第一審勝訴時点で、現金を回収することが可能です。
ただ、あくまでも「仮」執行なので、最終的に逆転敗訴すれば、現金を返還する必要があるので注意です。

与信管理について

与信管理とは何ですか?

債権を確実に回収するための活動です。
多くの場合、売上が現金に代わるまでには一定の期間があり、この回収に失敗すると、一気に企業の経営は厳しくなります。
こうした事態を防ぐために、「この取引先は信用できるか」「いくらまでなら掛けにできるか」「契約書や担保はどうするか」といった事項を決定し、実行することが与信管理です。

与信管理とは、どのようなことをするのですか?

与信管理では、確実に債権を回収できるための活動をします。
具体的に以下のような業務をします。
① 取引先が信用できるかを調査、分析する
② 相手に支払能力があるか、利益や財産をチェックする
③ 契約書、納品書、受領書などの書類を作成・保管する
④ 担保の設定を決定、実行する
⑤ 時効管理をする

与信管理のメリットは何ですか?

債権回収の確率が上がり、経営が改善します。
(1) 債権回収の確率が上がります。
債権回収はあらゆる企業にとって大切です。しかし、相手先が倒産した、手形が不渡りになった、行方不明になったといったトラブルが発生してから対応する場合、すでに手遅れという場合が多くあります。
担保をとるなど適切な与信管理をすれば、債権回収の確率を高めることができ、「債権未回収」という事態を予防することができます。
(2) 利益アップにつながります。
一面で、与信管理をすればコストになるのも事実です。契約書をはじめとした書面を作成したり、相手の経済状況を常時チェックしたりする仕事が増えるからです。
しかし、与信管理を怠れば、未回収の債権が発生して大きな損失を被る危険があります。与信管理は損失を回避することにより利益を上げる機能を有するのです。
また、与信管理をしっかりしておけば、豊富な手段や証拠による迅速かつローコストな債権回収を実現することができます。

債権回収に重要な証拠(契約書等)

債権回収に必要な証拠には、どのようなものがありますか?

契約書、請求書、預金通帳など、債権の種類によって様々です。
売買代金なのか、貸金なのかなど、回収する債権や事件によって、必要となる証拠は様々です。代表的なものとしては、契約書、請求書、納品書、受領書、預金通帳などがございます。
それぞれの証拠の意味については、用語集のページをご参照ください。

債権回収では、どのような証拠が重要ですか?

相手方の署名・押印があるなど、書類の作成に相手方が関与しているものが証拠として価値が高いです。
請求書・見積書などは、こちらが一方的に権利を主張しているだけで、証拠としてはやや弱い面がございます。
他方で、契約書や受領書のうち、相手方の署名・押印があるものなどは、証拠としての価値は高いものといます。いわば支払いの義務があることを自ら認めているといえるからです。平常時から、こうした証拠を作成・保管していますと、債権回収は非常にスムーズになります。
ここで重要なのは、「契約書」や「受領書」といった書面の表題・タイトルではなく、相手方が支払義務や、こちらに有利な事情を認めていることが、その書面から読み取れるかどうかです。

弁護士に頼まないと獲得できない証拠というのはありますか?

弁護士照会制度によって獲得できる証拠があります。
弁護士照会とは、弁護士が公務所又は公私の団体(役所、会社など)に照会して必要な事項の報告を求めることです(弁護士法23条の2)。この制度により、通常弁護士以外の方では獲得できない情報・証拠を獲得することが期待できます。

口約束しかしていないのですが、債権回収はできますか?

回収の可能性はあります。
日本においては、一部の例外を除いて契約は書面でなく口頭でも成立します。そのため、口約束しかしていないからといってあきらめる必要はありません。その他の証拠や証言から、債権回収に成功する可能性はございます。

契約書を作成するポイントはありますか?

取引の一連の流れの中で想定されるリスクを見つけ出して、そのリスクが生じた場合にどうするかの対策を、法令や判例を踏まえつつ明快な表現で記載することです。
契約書とは一言でいえば、リスクに備えるものです。例えば売買契約書を作成するのなら、不良品だった場合はどうするか、運送途中で紛失した場合、破産した場合はどうするかなど、想定されるリスクを網羅的に検討する必要があります。
また、対応策についても、業界の常識、法令や判例を踏まえて有効・適法なものを選択する必要があります。
さらに、裁判になればこの契約書を読んで裁判官はどういう判断をするだろうかという視点を持って、明確な表現で記載する必要もあります。「貸すことを約した」と「貸し渡した」のように、一見すると同じ表現でも、勝敗が分かれることがあります。
少額であるなど簡単な取引であれば市販の書式をそのまま利用することも費用対効果からして考えられますが、新規・継続的・大口といった取引である場合には、弁護士に依頼するなど、慎重な契約書作成をお勧めします。

債権回収と税金

今年度に商品・サービスを提供したのですが、支払日は翌年度です。対応する税金は翌年度に支払えばよいでしょうか?

今年度の売上、利益として会計処理・納税する必要があります。
所得税、法人税はともに現実に金銭を回収したとき(現金主義)ではなく、権利として確定したとき(発生主義)に収入や益金を認識するとしています。商品やサービスを提供すれば、法的に代金を請求することができるのだから、利益として考えるべきという点が一つ理由としてあります。
このため、支払いが遅れているのに納税義務が生じるといった、二重の負担がかかる可能性があります。この点からも、早期の確実な債権回収が重要となります。

取引先が倒産して債権回収が不可能になりました。何か税務上気を付ける点はありますか?

貸倒損失処理を忘れずにしましょう。
債権が未回収になったとしても、何も会計処理をしなければ、そのまま利益として課税されたままです。回収不能となった不良債権をきちんと貸倒損失計上することによって、必要経費・損金として処理することができます。
また、不当な租税回避を防止するために、貸倒損失が認められるためには一定の要件を満たす必要があります(法人税法基本通達9-6、所得税法基本通達51-10以下参照)。

債権回収と消滅時効

時間が経つと権利が時効で消滅すると聞きましたが本当ですか?

本当です。いつ時効によって消滅してしまうかには注意してください。
「権利の上に眠るものは保護に値しない」という考え方が法律にあります。この考え方に従って、長期間権利を行使しないでいると、債権は時効で消滅してしまいます。非情な制度と思われるかもしれませんが、法律と権利は行使して初めて意味があると割り切る必要があります。このように消滅時効は金額に関わらず、一瞬にして債権を無にするもので、細心の注意が必要です。

債権は何年で時効消滅するのですか?

債権の種類によって異なりますので注意が必要です。
原則として債権の消滅時効は10年です(民法167条1項)。ただ、売掛金や給料債権は2年しかない(民法173条1号、労働基準法115条)など、多くの例外があるので注意が必要です。
また、具体的な債権が何年で時効消滅するのか、法律の専門家でも判断が分かれることがあり、裁判で不利な結論になるリスクもあります。判断が難しい場合などは、独断で決めつけず、早めに回収や時効中断の措置を執るべきといえます。

消滅時効を止める手段はないのですか?

請求などによって、時効は中断します。
消滅時効を中断する事由は、民法147条に定められています。
① 請求(147条1号)
相手方に訴訟を提起するケースが典型例です。
② 差押え、仮差押え又は仮処分(147条2号)
強制執行をするケースなどです。
③ 承認(147条3号)
相手方に支払義務を認める書面に署名・押印させた「債務承認書」を作成する方法が一般です。①②に比べて非常にコストが安く済むというメリットがありますが、相手方が作成に応じる必要があります。

相手方に代金を支払えという通知を送りました。時効は中断しますか?

中断はしますが、6か月以内に裁判手続をする必要があります。
民法は「請求」を時効中断事由としていますが(民法147条1号)、それはあくまで訴訟提起などの、裁判手続を利用した請求です。書面の通知を郵便で送るなどの裁判を利用しない方法は、「催告」(民法153条)に当たり、6カ月以内に訴訟の提起などをしないと時効中断がされないので、注意してください。
なお、手紙などの通知は「そんなもの受け取っていない」といわれるリスクがありますが、「配達証明付内容証明郵便」という方法をとれば、この主張を封じることができます。

内容証明郵便について

債権回収に関して内容証明郵便という言葉をよく聞くのですが、どういうものですか?

送付された書面の内容を、日本郵便が証明してくれる郵便制度です。
内容証明郵便とは、送付した郵便物の書面の内容について、日本郵便が証明してくれる制度です。内容証明郵便を利用すれば、どんな書面を相手に送ったかを、証明することができます。
また、時効や支払日の関係から、いつ請求したかが重要になる場合がほとんどです。そのため、内容だけでなく、いつ配達しかも証明してくれる、「配達証明付きの内容証明郵便」で送ることが一般的です。単に内容証明郵便と呼ぶ場合でも、配達証明も含んでいると考えてよいでしょう。

通常の郵便にせず、内容証明郵便にするメリットはありますか?

「そんな書面は受け取っていない」と反論されるリスクを防ぐことができます
内容証明郵便では、どんな書面を相手方に送付したかを証明することができます。
これにより、「そんな書面は受け取っていない」と反論されるリスクを防ぐことができます。請求書、催告書など重要な送付物は、内容証明郵便で送るべきでしょう。

相手方に財産がない場合

相手に財産が全くない場合でも、債権回収はできますか?

困難といえますので、事前に相手の財産状況を確かめる必要があります。
基本的に、相手方に財産がない場合は、強制執行をしても空振りに終わります。こうなると、交渉や裁判に費やした時間や金銭が無駄となりかねません。
このように、債権回収では、「裁判で勝てるかどうか」と同じくらい、「勝っても現実に回収できるか」が重要となりますので、相手方の財産状況には注意が必要です。

相手に財産が全くない場合は、どうすることもできないのですか?

被害を最小限にするためにするべきことがあります。
相手に現在財産が全くないからといって、何もしないでいると、債権は時効で消滅していまいます。将来財産が増える可能性もありますから、分割払いにすることによって、少しずつ回収するという方法もあります。
また、経済活動を行っている限り、必ず債権回収の問題は起こります。なぜ、回収に失敗してしまったのか、どうすれば回避できたのかといった分析、改善をして次の債権回収につなげることも重要です。

債権回収と相手方の破産・再生

そもそも倒産とは何ですか?

経済的に破綻して、支払が不能または著しく困難になった状況をいいます。
倒産とは、明確な定義はないのですが一般的に「経済的に破綻した状態」として用いられます。

倒産に対する対策はどのようなものがありますか?

担保を取得するなど、事前の準備が有効になります。
相手方が倒産し、法的手続に入りますと、こちらの金銭債権が免除または減額されます。これにより、債権の回収は非常に困難となります。
相手方が倒産してから対策を立てようとしても、手遅れになるケースが多いです。そのため、与信限度額を定めたり、担保権を取得しておくなど、事前の対策が必要となります。

倒産状況から債権回収をする際に気を付けるべきことはありますか?

否認権の対象にならないよう、また過度の取り立てにならないように気を付けてください。
担保権がある場合などは別ですが、基本的に債権者同士は平等に分配を受けるというのが倒産法の原則です。このため、他の債権者がいるのに自分だけに優先して支払うことを要求すると、債権者平等に反する行為として否認されるリスクがあります。このリスクについては常に注意しておく必要があります。
また、支払いのない相手方の住所や建物に勝手に立ち入り、財産を取り立てていくことは住居侵入(刑法130条)や窃盗罪(同法235条)、場合によっては恐喝罪(同法249条)が成立しますので、過度な取り立ては絶対におやめください。