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事例紹介

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建物明渡請求と回収不能家賃の税務上の取り扱い

賃借人が家賃を滞納したことを理由に、賃借人に建物の明渡し請求をする事件は、不動産関連の仕事をしている場合にはよくあることです。
今回は、以前個人のクライアントの建物明渡請求をした際の税金を含めた話をご紹介します。

前回の更新拒絶のときに借家人に不利な約定は効力がないとの話をしましたが、家賃滞納による建物明渡についても、似たようなことが言えます。
例えば、賃貸借契約において、「賃料を1か月以上滞納したときは、賃貸人は、本契約を解除できる。」と謳われている契約書をよく見かけます。
契約書をみると、賃借人が家賃を1か月分滞納しただけでも、賃貸人が直ちに契約を解除し、賃借人に退去を請求できるように思えてしまいます。
しかし、実際には、賃借人の債務不履行(1か月分でも家賃を滞納することは債務不履行にあたる)があっても、その債務不履行が些細な場合にまで解除を認めてしまうと、賃借人において住まいや営業の拠点を失うことになり、あまりに不均衡な損失が発生してしまいます。
そこで、判例は、契約解除の要件として賃貸人と賃借人間の信頼関係を問題とし、「相互の信頼関係を破壊するに至る程度の不誠意がある」ことが必要としました(いわゆる「信頼関係の法理」)。
つまり、1~2か月程度の家賃の滞納では、通常相互の信頼関係が破壊するに至ったとは認められないので、契約解除はできないことになります。
前回取り上げた「正当事由」は借家人保護のための特別法(借地借家法)による民法の一般原則の修正ですが、「信頼関係の法理」は、判例法理による修正となります。
相談に来たクライアントは、その時点で既に半年程度家賃が支払われていないとのことであったので、解除の要件についてはさほど問題ではありませんでしたが、滞納家賃額が膨らんでいたため、その回収が問題でした。
早速、賃借人に対し建物明渡請求及び滞納家賃と明渡しまでの家賃請求をしました。明渡しについては、認容判決後、賃借人が任意に履行してくれましたのでうまくいきましたが、未収の家賃については、明渡しまで、結果9か月ほど溜まってしまいました。
家賃滞納による建物明渡請求においては、家賃を回収するのが困難です。そもそも家賃の支払能力がないから、滞納しているのであり、判決が出たからといって、賃借人にお金がないことに変わりはありません。
本件でも、目ぼしい金融機関にあたり、強制執行を試みましたが、結局残高がほとんどなく回収できずにいたところ、賃借人が破産申立をしてしまいました。最終的には200万円程度の家賃が回収不能になってしまいました。

家賃が回収不能となった場合には、税金を取り戻すことが重要です。なぜなら、税務上は、家賃が実際に入金されているか否かに関わらず、原則として約定により入金すべき時期に収益計上し、それに対する税金が課されているからです。
そこで、まずは税務上の回収不能の判断をする必要があります。
税務上の判断基準としては、法律上の貸倒れ及び事実上の貸倒れ等があります。
法律上の貸倒れは、民事再生等による切り捨てなど、事実上の貸倒れは、資産状態や支払能力等に鑑みて全額回収不能な場合です。
税務上、回収不能の判断ができる場合には、つづいて、税金の取り戻し方法が問題となります。
税金の取り戻し方法は、その個人の不動産貸し付けが、事業的規模かそれ以外かで異なります。事業的規模とは、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で行われているかどうかにより判断されますが、実務上は「5棟10室基準」が使われています。つまり、マンションなどの部屋については10室以上、戸建てについては5棟以上であれば、事業的規模にあたる、との判断となります。

回収不能家賃の税務上の取り扱いは、次のとおりです。
・事業的規模の場合・・・回収不能となった年分の必要経費に算入する(所得税法51条2項)。
・事業的規模以外の場合・・・収入に計上した年分までさかのぼって、その回収不能に対応する所得がなかったものとして、所得金額の計算をやり直す。

不動産貸付けが事業的規模にあたる場合には、回収不能が確定した時点において、貸倒損失として必要経費に算入すればよいので、比較的容易です。
問題は、本件もそうでしたが、事業的規模以外の場合です。所得税の課税は、暦年単位であるため、当年分の家賃収入につき、貸倒れが生じた場合には、そもそも収入計上しなければいいだけです。
しかし、既に申告済みの年分について貸倒れが生じた場合には、申告済み年分の税金計算を訂正するために、税務署に対して、更正の請求をする必要があります。
更正の請求の期間は、平成22年分の所得税の申告までは、法定申告期限から1年でしたが、平成23年分の申告から、同5年となりました(国税通則法23条1項)。
また、上記期間経過後であっても、貸倒れの事実が生じた日の翌日から2か月以内であれば、更正の請求が可能です(同条2項)。
以前に比べ更正の請求の期間が延長されましたが、税金を取り戻すことを忘れずにしたいものです。